2025年11月13日〜16日。
高崎アリーナ。
団体戦とは違う、“個”だけが立つ舞台。
わずか1分前後の演技に、
これまでの積み重ねと、自分への静かな闘いが凝縮される。
ジュンスポーツ北海道から決勝の舞台に立ったのは、
長﨑柊人(あん馬)と前田航輝(ゆか)。
ここでは、そのふたりの物語を辿りたい。
長﨑 柊人 ― あん馬
― 予選 14.733。団体 14.833。決勝 14.633。
“3本すべて”で日本一となった完全優勝。
長﨑のあん馬には、派手さではなく“必然”があった。
予選では
14.733(1位)。団体戦では
14.833(全選手中トップ)。そして決勝の
14.633(1位)。ひとつひとつの数字が雄弁に語る。
この大会のあん馬は、最初から最後まで、
長﨑の物語だった。
決勝。
馬にまたがった瞬間、空気がほんの少しだけ締まった。
旋回の伸びは、まるで空間を切り裂く線のようで、
手と馬体の接点には無駄な力が一切ない。
体線が一直線に伸びたまま移動し、
脚は揺れず、テンポは狂わず。
そして最後の着地――
観客席の呼吸すら止まったような“音のない着地”。
得点が提示された瞬間、
静かな会場に、確かな緊張がほどける気配が走った。
予選 → 団体 → 決勝。
3本すべてで“1位”。これは偶然ではない。
積み重ねが生んだ必然であり、
あん馬という種目における “圧倒的支配” だった。
ジュンスポーツ北海道の歴史に
新しい1ページが刻まれた瞬間だった。
前田 航輝 ― ゆか
― 予選7位からの挑戦。着地の力強さが光った4位。
前田のゆかには“一瞬で空気を変える力”がある。
その強みは、着地の力強さと、大きな身体の使い方から生まれるダイナミックさだ。
予選は 7位通過。
安全策ではなく、攻める構成を選びながらも大きな乱れはなく、
最後の着地で会場に響くような力感を残した。
あの着地は、数字以上に「決勝で勝負できる準備が整っている」ことを示していた。
迎えた決勝。
最初のタンブリングから前田は迷いがなかった。
高さのある前宙系、広い軌道で描かれるひねり、
着地では床をしっかり押し返すような力強い止め――。
技のひとつひとつが大きく、観客の視線を引き寄せる。
ゆかという種目が持つ“流れの美しさ”と、前田の個性である“迫力”が見事に交わった演技だった。
最終着地でわずかに動きが出た。
ただ、その揺らぎは攻めた証であり、怯まずに前へ踏み込んだ証でもあった。
結果は 4位。
メダルには手が届かなかった。
しかし、予選7位から順位を三つ上げ、内容で勝負した4位は
“確かな前進”と言える価値ある一戦だった。
前田のゆかは、全国でも戦える――。
そう確信させる演技だった。
― 決勝に立つ8名。そこに届いた者も、届かなかった者も。すべてがチームの強さになる。種目別という舞台は、団体とはまったく異なる緊張を孕んでいる。
決勝のフロアに立てるのは、
全国から集まった実力者のうち、各種目わずか8名のみ。
残酷なまでに狭い門だ。
その中で長﨑は完全優勝を、
前田は4位という確かな存在感を示した。
だが、この大会を戦ったのは二人だけではない。
予選で立ちはだかるのは、
全国の強豪たちの“本気”と、
一瞬のミスで全てが変わる緊張。
その厳しさを知りながら、
ジュンスポーツ北海道の選手たちは
自分の技を賭けて、一人ひとりがフロアに立った。
決勝に届いた者もいれば、
ほんのわずかに届かなかった者もいる。
けれど、その挑み続ける姿勢は、
順位表には残らなくても、確かな価値がある。
チームが強くなる“土台”は、いつも挑戦者たちの中にあるからだ。
2025年の種目別選手権で得た手応えと課題は、
来季へ向かうジュンスポーツ北海道に、確かな光を与えている。
2026年。
チームはさらに高い理想と覚悟を胸に、
Stronger than past.その言葉のとおり、前へ進み続ける。