全日本シニアを終えた夜、ジュンスポーツ北海道のメンバーは笑顔で打ち上げに集った。
その輪の中に長﨑柊人の姿もあった。
だが彼は、心の奥で静かに距離を置いていた。
翌日に控える「男子体操種目別メダリスト選手権」。
仲間と喜びを分かち合いながらも、気持ちを切らすことなく、自らを律していた。
会場の静寂と緊張感
9月7日、エスフォルタアリーナ八王子。
この舞台では、同時進行の団体戦とは違い、フロアに立つのは常に一人の選手だけ。
会場全体の視線が、今この瞬間、ただ一人に注がれる。
演技前の静寂は、鼓動の音すら聞こえるほど。
チームメンバーも観客席から固唾をのんで見守る中、長﨑はあん馬の前に立った。
仲間の声援は背中を押すが、最終的に馬の上で戦うのは自分ひとり。
孤独と緊張感が、否応なく彼を包み込む。
ひとりの演技、観衆の拍手
旋回、移動、そして下りへ。
わずかなミスも許されない舞台で、長﨑は全身の神経を集中させた。
観客の視線と静寂が重圧となり、同時に力へと変わる。
最後の着地が決まった瞬間、場内から拍手が湧き上がった。
結果は3位。
惜しくも頂点には届かなかったが、確かな存在感を刻んだ。
次への誓い
団体の喜びの輪から距離を置き、孤独な翌日を戦い抜いた長﨑。
その胸に残ったのは、孤独感ではなく「悔しさ」だった。
「次は必ず」――。
11月の全日本種目別選手権。
再びあん馬に挑む彼の視線は、すでに前を向いている。
長﨑柊人。
仲間に支えられ、観衆に見守られながら、
孤独な舞台で自らを試す。
その物語は、まだ続いていく。