2025.9.11

孤独と挑戦──平行棒から始まった個人の物語


午前9時。
まだ観客席は埋まらず、空白が目立つ。
選手たちの準備運動に励む音だけが、ぽつりぽつりと会場に響いていた。

団体に出場するチームは、声を掛け合い、輪をつくり、互いに背中を押し合っていた。
その輪の中には、安心と連帯感があった。

一方、ジュンスポーツ北海道の「個人出場組」は違った。
工藤友也、白石祐樹、山岡航太郎、大谷直希、青木龍斗、神本将。
彼らは一人ひとりが孤立したように準備を進める。
視線の先にあるのは器具だけ。
自らの呼吸と鼓動に耳を澄ませるしかなかった。

孤独なウォームアップ。
その姿は、団体との対比でいっそう際立つ。
仲間の声援に包まれるのではなく、冷たい空気に耐えながら自らを奮い立たせる。
個人として戦うという現実が、そこにはあった。

神本将にのしかかった影


そして神本将には、もうひとつの影がのしかかっていた。
エース前田航輝が発熱で、直前まで「入れ替え出場」の可能性が消えなかったのだ。
自分は出るのか、それとも最後まで待機か。
その答えが定まらぬまま時間だけが過ぎていく。
集中しようとすればするほど、思考は乱れ、心は削られていった。
張り詰めた精神状態のまま、彼は平行棒の前に立った。

緊張の初種目は、平行棒。
全身をバネのようにしならせ、静止と離れ技の均衡を保つ。
その第一歩は、想像以上に重かった


まばらな拍手。
観客の声よりも、自分の鼓動のほうが大きく響く。
それでも、彼らは挑んだ。
団体から漏れた悔しさを抱き、入れ替えの不安を抱え、それでも「ここで終わらせない」と誓いながら。

数字では測れない一日。
孤独と向き合ったその経験は、やがて全日本体操団体選手権へとつながる。
再び仲間と並び立つために。
この孤独な一歩が、未来を切り開く力になる。


この舞台に立てたのは、日頃から応援してくださるファンの皆さま、そして陰に日向に支えてくださるご家族や関係者のおかげです。
孤独な挑戦もまた、その支えがあるからこそ続けられる。
心より感謝申し上げます。