午前9時。
まだ観客席は埋まらず、空白が目立つ。
選手たちの準備運動に励む音だけが、ぽつりぽつりと会場に響いていた。
団体に出場するチームは、声を掛け合い、輪をつくり、互いに背中を押し合っていた。
その輪の中には、安心と連帯感があった。
一方、ジュンスポーツ北海道の「個人出場組」は違った。
工藤友也、白石祐樹、山岡航太郎、大谷直希、青木龍斗、神本将。
彼らは一人ひとりが孤立したように準備を進める。
視線の先にあるのは器具だけ。
自らの呼吸と鼓動に耳を澄ませるしかなかった。
孤独なウォームアップ。
その姿は、団体との対比でいっそう際立つ。
仲間の声援に包まれるのではなく、冷たい空気に耐えながら自らを奮い立たせる。
個人として戦うという現実が、そこにはあった。
神本将にのしかかった影
そして神本将には、もうひとつの影がのしかかっていた。
エース前田航輝が発熱で、直前まで「入れ替え出場」の可能性が消えなかったのだ。
自分は出るのか、それとも最後まで待機か。
その答えが定まらぬまま時間だけが過ぎていく。
集中しようとすればするほど、思考は乱れ、心は削られていった。
張り詰めた精神状態のまま、彼は平行棒の前に立った。
緊張の初種目は、平行棒。
全身をバネのようにしならせ、静止と離れ技の均衡を保つ。
その第一歩は、想像以上に重かった
まばらな拍手。
観客の声よりも、自分の鼓動のほうが大きく響く。
それでも、彼らは挑んだ。
団体から漏れた悔しさを抱き、入れ替えの不安を抱え、それでも「ここで終わらせない」と誓いながら。
数字では測れない一日。
孤独と向き合ったその経験は、やがて全日本体操団体選手権へとつながる。
再び仲間と並び立つために。
この孤独な一歩が、未来を切り開く力になる。
この舞台に立てたのは、日頃から応援してくださるファンの皆さま、そして陰に日向に支えてくださるご家族や関係者のおかげです。
孤独な挑戦もまた、その支えがあるからこそ続けられる。
心より感謝申し上げます。